加工ソルーション…樹脂・フィルム各種

『樹脂・フィルム素材』

各プラスチック素材とCO2レーザーとの適正、熱影響、について検証します。
素材の種類
PP/PE/PET/PVC/ABS/PS/PES/PC/PU/アクリル/POM/PDMS

 


木材
レーザー豆知識


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目次
1.PS:ポリスチレン
2.PES:ポリエステル
3.PU:ポリウレタン
4.PP:ポリプロピレン
5.PET
6.アクリル
7.ABS樹脂+ウレタン樹脂塗装
8.ウルテム樹脂
9.POM
10.PDMS

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1.PS:ポリスチレン
PS.発泡ポリスチレン
加工可能ですが、熱影響により収縮してしまいます。発泡倍率にもよりますが、特に倍率が高い素材は熱影響による素材の変形が大きいです。今回のテストは厚み3ミリ素材ですが、パルス幅を短くしてカットをすれば写真程度の品質でカットは可能です。素材の収縮としては2ミリの収縮がありました。


■ポリスチレン(インジェクション成形品)
材質がポリスチレンのインジェクション成形品へのトライ結果です。
細字以外の文字等であればマーキングは可能です。ハッチングも可能ですが、品質(熱影響)を考えると要検討です。細字など微細加工には向いていませんが、目的があれば加工できる素材です。
加工目的が明確であれば、レーザー加工は可能な素材です。

ポリスチレン成形品 切断加工
プロッターシステムであれば少しの溶け出しはありますが、切断は可能です。ただ、PSの厚みとしては加工品質を踏まえると1㎜までが限度かと思います。

YAGレーザーでの加工であれば細字などのマーキング加工は問題ありません。


■ポリスチレン(一般発泡容器)
発泡ポリスチレン容器への穴あけ加工の事例紹介です。
普段食品で使われている一般的な発泡ポリスチレン容器となります。その容器のコーナーに10㎜の穴を開ける加工です。
実際に加工すると周りへの熱影響で、素材が溶けて収縮する。これは避けられない為、寸法を出す必要がある場合はオブジェクトのオフセット調整が必要。直径で2㎜程度の収縮があります。それと収縮の際にカットしたカスが周りに付着してしまう。これを取り除く方法を検討中。(パラメーター設定で改善を検討中)
レーザー以外の方法で穴を開ける場合、細かな切りカスなどが容器中に残り食品用容器として衛生的な問題が発生してしまう。
穴開け加工はレーザーの加工特性を活かした加工方法となります。

■ポリスチレントレー
ポリスチレン0.5㎜真空成形トレーへの穴開け加工です。写真のポリスチレンシートにはカーボンが混入されています。穴径は直径7.5㎜ですがレーザー照射による熱影響で直径約0.5㎜の引けがありました。
(写真)

狙い通りの寸法を出すために図面上で修正をします。修正後:直径約7.5㎜
(写真)

トレーには均等間隔で80個の穴を開けます。

2.PES:ポリエステル
ポリエステルという化学繊維で色々な素材があります。衣料品でも多く使われている素材であり、身近な雑貨品でも多くの製品があります。レーザー(CO2)の吸収も悪くなく加工可能です。ただ、熱影響は避けられなく、化繊という素材上、熱影響による収縮はあります。写真のトライはポリエステル素材のコースターです。コースターの厚みは約6㎜あり、厚物の部類です。
熱影響で直径約2㎜程度の収縮が見られます。素材に厚みがありパワーを必要とする場合には熱影響は避けられません。2〜3㎜程度の厚みであれば比較的きれいにカットすることは可能です。


■ポリエステルフェルト
手芸素材として、雑貨品として、様々な用途に活用されています。素材の厚みが1㎜〜2㎜程度であればレーザー加工時の熱影響も最小限に抑えて加工できます。しかし、素材の厚みが増すとレーザー出力も高くする必要があり、結果として熱伝導により素材の熱ダレ等が発生します。
微細加工も可能ですが、紙ほどの微細加工は無理があります。2㎜程の間隔を取った方が良いと思います。
写真は1㎜のフェルトです。加工にはこの程度の厚みが最適かと思います。切断面も熱影響による溶融で繊維のほつれ止めにもなっています。

■ポリエステルラベル:一般市販品
ここで紹介するラベルは、レーザープリンター用ラベル素材として一般市販品として販売されています。ラベル素材の中でPP素材や塩ビ素材のラベルがありますが、Co2レーザーとの相性は良くありません。塩ビ素材の場合は塩素系の有毒ガスが発生するため、環境への問題がありお勧めできません。このポリエステルラベルは少しの熱収縮が見られますが、全く問題ないレベルです。レーザープリンター用ラベルなので印刷も容易で、レーザーカットと組合わせると面白い商材になると思います。
魚のアウトライン。線の太さは最小で0.5㎜程度で紙素材より強度があります。

■市販ウインドフィルム:ポリエステル
基材構成:着色ポリエステル/粘着層/メーカーセパ
加工方法:ドット穴をハーフカットしメーカーセパ側にカットした残骸を残します。
写真デザインのハーフトーン加工(ドットパターン)

3.PU:ポリウレタン(ウレタン樹脂 ウレタンゴム)
使用用途としては、塗装(ウレタン塗装)、接着剤(ホットメルト)、ウレタンフォーム、繊維製品(ジャージ)、人工皮革(不織布に合成樹脂を浸透させた物)、靴底などが挙げられます。
発泡ポリウレタンとは、ポリウレタンに発泡材を加え重合させた物です。ウレタンフォームと呼ばれています。
見た目は熱影響を多く受けそうですが、パルス発振レーザーでは加工可能です。レーザー照射をパルス制御し、加工を施せば熱影響を最小限に抑えて加工できます。
■写真は発泡ウレタンフォーム15㎜厚の素材です。カットはパルス制御で熱影響を抑えて加工してあります。型抜きで不可能な加工がレーザー加工では可能になります。

4.PP:ポリプロピレン
素材特性は強度が高く吸湿性がよく耐薬品性、耐熱性に優れいている。
加工に関しては、CO2レーザーの吸収率が悪く透過傾向があります。CO2レーザーの波長の中で10.2μmの波長帯はPPとの相性が良いとされます。良いと言ってもエネルギー量が必要で、その影響で熱による隆起などの傾向が強いです。

■切断トライ
切断加工をしましたが、熱影響で断面が盛り上がってしまいます。加工に寸法精度を求めない物であれば問題ないと思います。
素材:PPシート0.75㎜
ノーマルモード加工:写真A
ドットモード加工:写真B(0.15㎜ピッチ毎に15shotレーザー照射してあります。)
ノーマルモード加工では素材への熱影響が大きく素材へのダメージが大きいです。
ドットモード加工ではパルス幅をコントロールし熱影響を抑えて加工しました。。結果としては熱影響は受けますが、ノーマルモード加工に比べ品質が上がります。

5.PET
PET素材はCO2レーザーに適しています。CO2波長の中でも9.3μmの波長帯がより効果的な加工が可能です。(熱影響が抑えられます。)

【PETについて知識編】
よく呼ばれているPETですが、もう少し具体的に分類してみます。PETの種類によってCo2レーザーとの相性(加工品質)に大きな差があることを説明します。
PET分類の元となるものがポリエステル(半芳香族)と呼ばれるものです。
わかりやすく図解すると
図解

PETフィルムは製造方法により大きく2つに分類されます。
無延伸PETフィルムと無延伸フィルムを2軸方向に延伸させた2軸延伸PETフィルムです。図中のA-PETは無延伸PETフィルムになります。耐熱性が低く傷つきやすい特性があります。
2軸延伸フィルムとは
フィルムの製造過程で2方向(縦と横方向)に引き伸ばします。その過程によりフィルム特性も変化します。
-フィルム特性-
・フィルム強度が向上する。
・フィルムの温度変化に対して変化が小さくなる。
・耐熱性、耐寒性が向上する。
・熱吸収率が大きくなる。
・ヒートシール性が低下する。
・フィルムの透明性、光沢が良くなる。
これらの特性を見ても同じPETと呼ばれるフィルムでも、製造過程でフィルムの特性が大きく異なってきます。
これはCo2レーザーでの加工品質に大きく左右されることになってきます。

PETフィルムをレーザーで加工する場合には、先ず材質等の確認をし加工方法を決めていくことをお勧めします。

■パルス制御加工例
PET0.05㎜シートに約200μのドットパターン加工。
穴が開かないように均一にドットパターンを入れます。パルス制御によりレーザーショット数を制御し熱影響を抑えます。
パルス発振レーザーではレーザーパラメーター値(出力%、周波数Hz)の制御によりある程度の熱影響をコントロールできます。素材の厚みにもよりますが、貫通穴の場合は最小値で直径200μ~300μの穴径の加工が可能です。

写真:Co2パルスレーザー(10.6㎛)
ドットパターン加工(シボ加工)貫通穴ではありません。


写真:Co2パルスレーザー(9.3㎛)
■PETフィルム貫通穴加工
レーザー照射面の上部と下部の直径の差がわかります。

3D解析写真では熱影響で隆起したフィルムの状態がわかります。

6.アクリル
アクリルはCO2レーザーの加工において、非常に吸収率も良く、レーザー加工に向いています。外観は透明性が高く、色々な所に使用されています。装飾品としても多く使用されています。
アクリルを擦ると特有の匂いを発します。レーザー加工においても、ビームを照射するとそのガスが発生します。加工時のガスの匂いは防ぎようがありませんが、人体に害はありませんので心配はありません。
■パルスレーザー加工事例
〈穴開け加工〉
直径1㎜以下の丸穴開け加工…アクリル3ミリ板に直径0.2㎜の丸穴を0.8㎜ピッチで穴開け加工。
レーザー入射面と反対面の違いが分かります。図面寸法は0.2㎜ですが熱影響を受け入射面は約0.5㎜になっています。反対面は約0.35㎜です。熱影響を想定することで狙い通りの寸法を出すことは可能です。

■〈ドットマーキング導光板〉
パルス発振レーザーの特性を最大限に活かした加工方法であり、パルス制御にてショット数を設定することが可能です。それにより加工深度を調整します。ドット径はビームスポット径になりますので、約180μのドットとなります。スキャナエリアは150㎜×150㎜の為、スキャナヘッド可動することにより加工エリアをカバーします。導光板サイズは最大で430㎜x730㎜までが加工可能です。スキャナヘッドを移動させドット位置を狂い無くマーキングすることは非常に難しい技術です。ビームにも角度が生じてしまうことで、LED光を入れるとどうしても境界線が出てしまいました。そして色々な条件をトライしようやく完成となりました。
LEDスタンドは厚み5㎜幅380㎜のアクリル板がセットできます。又、導光板のみでの取り扱いも出来ます。

■〈アクリル治具〉
スキャナ制御とプロッタ制御の双方を活かした加工になります。プロッタ制御で外観などの形状をカットし、印字や彫刻をスキャナ制御で加工します。金型を必要としないため、コストが大幅に削減されます。そして1個から製作できます。
事例としてトリマーのアタッチメントを紹介します。

7.ABS樹脂+ウレタン樹脂塗装
少し変わった加工事例になります。そもそもABS樹脂とCO2レーザーとの加工相性は悪いです。ABS樹脂へレーザーを照射すると、吸収が悪いため熱影響により樹脂の表面が熱ダレしてしまいます。ここで紹介する加工事例は、ABS樹脂の表面にウレタン樹脂塗が施されており、その塗装部分を除去する加工です。加工の目的は、文字を印字するために、ウレタン樹脂塗装を除去することです。ウレタン樹脂塗装の上に印字してもインクの定着が悪く消えてしまうからです。
今回の加工ではウレタン樹脂塗装を除去し、ABS樹脂の表面を適度に荒らしました。この加工により印字インクの定着も良くなりました。
加工詳細(写真)

0.08㎜ピッチで水平方向にレーザーマーキング。
できる限り熱影響を抑える方がABS樹脂の表面が綺麗です。

8.ウルテム樹脂
聞き慣れない素材名ですが、機能性に優れた樹脂です。素材特性としては硬度があり粘り弾力性に優れています。素材色は透明な薄茶色です。基本波長(1.06μm)YAGレーザーを使い樹脂発色の有無を試しました。透明樹脂は透過してしまい発色しないと想定してましたが、レーザーの吸収も良く黒発色しました。少々の透過が見られましたが、十分に黒く発色します。ただ、熱影響もありますのでパラメーター設定で良い条件を見付けることが必要になります。

9.POP
POMとはポリアセタールの略称で、特性として耐摩耗性に優れ潤滑性がある。加えて剛性、靭性にも優れ、高い温度安定性を持つ素材です。
長所
〇耐摩耗性が高い〇潤滑性が高い〇強靭性で衝撃に強い〇弾性率良い
〇吸水性が小さく形状変化が少ない〇寸法精度高い
〇電気絶縁性が高い〇高温から寒冷環境に耐える
〇耐薬性や耐溶剤性に優れる
※レーザー加工に適する
短所
●難燃性がなく燃えやすい●外部での使用に弱い(形状変化)
●接着性が悪い(溶接は可)●耐酸性に弱い
●透明性が無い

■Co2レーザー加工トライ スキャナレーザー使用
POM 1.5㎜ 白
ビーム照射した感覚として非常に吸収が良いと感じます。気化した粉塵も無色に近く、匂いもさほど気にならないです。Co2レーザーとの相性は良いです。
写真:ピック形状カット
素材との加工相性が良く熱影響も最小限に抑えられます。寸法精度としては100μ以内で収まります。

製品図面

断面写真

10.PDMS
PDMSとはポリジメチルシロキサンの略称で、シリコーンゴムの一種です。透明性に優れています。
Co2レーザー加工は可能です。
Co2レーザーで加工した時、気化した粉塵に炎が上がり加工面に煤が付着します。洗浄である程度は除去できますが、全てを除去することは出来ません。
写真:PDMS t2㎜ 直径3㎜×384個
洗浄前

洗浄後

外観


PDMSガスケット t:0.5㎜ 穴径0.5φ 穴間ピッチ0.8㎜ 穴数2200個
全ての穴を取り除くことは高い加工技術が必要です。ビーム照射された部分から立ち上がる粉塵が多く、炎も上がります。それらのビーム干渉により部分的にエネルギーロスもあり、細かくなるほど加工は難しくなります。
残骸は顕微鏡で検査し全てを取り除きます。
品質:残骸付着率 約0.3%
追記:2022/12/12
不規則に残る残骸についてレーザー加工対策しました。対策により残骸はほぼ取り切れるように改善されました。

投稿日:2017年5月31日 更新日:

Laser職人